インプラントと格差社会
- 2011年11月号 -
以前、都心部で開業した知り合いの医院を見学した事の事です。
設備やスタッフの動き、同期の先生の治療など参考にしたいと思いながら、見学していると、ふと、違和感をおぼえました。
最初は、その違和感が何からくるものなのか、私にはわかりませんでした。
しばらく見学していて、やっと気づく事が出来ました。
最初はかぶっている歯の多くが保険外(自費)の歯であり、しかもオールセラミックという高価なかぶせものが多い事なのかと思いましたが、実は私が見学してから、気がつくまで、一人として義歯の患者さんを見学していないのです。
確かに、その医院では、オペ室もあり、当院では対応できないインプラントも行う事が出来ます。インプラントオペの技術も先生の人柄も素晴らしいものです。
ただ、インプラントの料金も当院よりはるかに高い設定ですし、かなりの本数を入れられている患者さんも多く見受けられました。
私が「すごいね。先生のところはほとんど義歯の患者さんいないね」と話すと、
彼は「うん。だって、義歯嫌いだもん」と答えました。
・・・・・・いや、好き嫌いの話ではなく・・・・
ただ、考えてみると彼の医院でインプラントの患者さんが多い一つの要因ではあります。
確かにインプラントは非常に優れたものです。そして、それを誰よりも、当然患者さんよりも強く信じているから出てきた言葉でしょう。金銭的な問題ではなく。
おそらく彼にとっては、そんなすぐれたものがあるのに、なぜ入れ歯を入れなければいけないのか理解できないという考え方なのでしょう。
すぐれたものがあり、それを行える技術があるのに、なぜ君は義歯を作っているの?と逆に彼は私に聞きたいのかもしれません。
当院でインプラントは基本的に1本35万としています。
歯の大切さを知っている私たちからしても、決して安い治療だとは思いません。
しかも、歯を多く失ってしまった方では、当然、複数本のインプラントが必要となりますから、百万どころの話ではありません。
そうなると、どうしても義歯という選択肢を患者さんが選択してもしょうがないように思います。
帰りに、その先生と話していて、その地区の平均月収を聞いて疑問が解決しました。
確かに、それだけの月収・年収の方たちであれば、迷わずインプラント・そしてインプラントが仮にダメになっても、再度、インプラントという選択をしますよねという収入でした。
格差社会という言葉を聞いて久しいですが、都心部とでは、これほど差があるのかという現実を目の当たりにすると、少し寂しい気もします。